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東京高等裁判所 平成9年(ネ)437号 判決 1998年3月18日

主文

一  控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴及び被控訴人(附帯控訴人)の本件附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)と被控訴人(附帯控訴人)を離婚する。

2  被控訴人(附帯控訴人)は、控訴人(附帯被控訴人)に対し、金一三一一万円を支払え。

3  控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成六年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、乙山学園から退職金の支払を受けたとき、金五〇〇万円を支払え。

二  控訴人(附帯被控訴人)及び被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、第二審を通じ、これを二分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

四  この判決は、第一項2に限り仮に執行することができる。

理由

【事業及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

1 原判決を次のとおり変更する。

(一) 控訴人と被控訴人を離婚する。

(二) 被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)は、控訴人に対し、金九一五二万六九一一円を支払え。

(三) 被控訴人の反訴請求をいずれも棄却する。

2 被控訴人の附帯控訴を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4 第1(二)項中、金五八四一万七九七二円の支払を命ずる部分は仮に執行することができる。

二  被控訴人

1 本件控訴を棄却する。

2 (附帯控訴)

(一) 原判決中、被控訴人の反訴請求のうち被控訴人敗訴部分を取り消す。

(主位的)

(1) 控訴人は、被控訴人に対し、財産分与として本判決が確定した月から被控訴人の死亡するまでの間、毎月末日限り金五万円を支払え。

(2) 控訴人は、被控訴人に対し、金七〇〇万円及びこれに対する平成六年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(遅延損害金につき請求の拡張)。

(3) 控訴人は、被控訴人に対し、金三〇〇万円に対する平成六年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(遅延損害金につき請求の拡張)。

(予備的)

控訴人は、被控訴人に対し、財産分与として金五〇〇〇万円及びこれに対する本件離婚判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  本件事案の概要

本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」欄の第二項記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決二枚目裏六行目末尾の次に行を改め、「一 前提事実」を加え、同七行目の「一」を削り、同三枚目裏二行目の「前夫」を「先妻」に、同四枚目裏八行目の「常磐木」を「常盤木」に、同五枚目表一〇行目の「また、」から同一一行目末尾までを「また、仮に右(二)(6)の給与について委託契約の成立が認められないとしても、被控訴人は、控訴人に対し、財産分与として、(一)(6)記載の金員のうちの三三一〇万八九三九円を支払うべきである。」にそれぞれ改める。

第三  判断

一  控訴人と被控訴人との別居に至るまでの経緯及び離婚請求について

控訴人と被控訴人とが別居に至るまでの事実関係並びに控訴人及び被控訴人の離婚請求については、次のとおり補正するほかは、原判決第三項一、二の理由説示のとおり(原判決六枚目裏二行目冒頭から同一四枚目裏七行目末尾まで)であるから、これを引用する。

原判決一一枚目表三行目の「このように」から同四行目の「あったため、」までを「控訴人と被控訴人とは、家庭内においては衝突することも多々あったが、ともに社交的な性格で、夫婦単位で友人との交際や旅行、また社交ダンス等の趣味に興じることに積極的であったため、」に改め、同一二枚目裏九行目の「ただし、」の次に「給与は手取り額、他は」を加え、同一三枚目裏四行目の「移管申出は、」を「移管の申出や控訴人の書置きを残しての突然の家出」に、同七行目の「』旨供述するが、」から同一〇行目の「窺われる」までを「被控訴人は我が強く、控訴人の家族との協調性も全くなく、冠婚葬祭を問わず控訴人の子や親族との付き合いを一切せず、控訴人が子や親族と付き合うことを極度に嫌い、夫婦間では争いが絶えなかった。被控訴人から長男一郎を勘当すると書かなければ離婚するなどと強く迫られて、その旨の手紙を書いたことがある。仙台で同居していたころから子供や親戚のことに絡んで何度となく被控訴人から離婚話が出ていた。』などと供述し、控訴人の妹である乙野松子の陳述書にも右に沿う記載がある。しかし、右は控訴人自身が先妻の法事の際にわざわざ親族に一郎を勘当する旨の断り書きを送っていることや控訴人の長女春子からの控訴人、被控訴人に対する手紙及び被控訴人の供述等に照らし、容易には採用できないうえ、控訴人自身、旅行やパーティに出かけるということについては仲の良い夫婦であった旨供述していることや控訴人が別居直前まで被控訴人と夫婦旅行を楽しみ、新たな計画をする等していたこと、前記認定の生活態様に照らせば、家庭内においては控訴人と被控訴人間でその時々になんらかの衝突、対立があっても、夫婦が深刻な不仲の状態にあったというものではなく、控訴人は将来も従前どおり控訴人の余裕のある収入をもって被控訴人とともに悠々自適して人生を楽しむ意思を有していたものと認められる」に、同一四枚目表三行目の「などがある。」を「などがあり、被控訴人に対する情愛が窺われる。なお、控訴人は、右和歌は被控訴人と控訴人との関係が冷え切ったものであることを歌っている旨主張するが、右は措信することができない。」に、同四行目の全部を「控訴人が供述するように被控訴人とは上辺だけの仲のよさをとり繕った険悪な関係にあったとは到底認め難い。そして」にそれぞれ改める。

二  控訴人の委託契約解除に基づく金員請求について

控訴人の委託契約解除に基づく被控訴人に対する金員請求について判断するに、当裁判所は、被控訴人は、控訴人に対し、委託契約解除に基づき、金一三一一万円の支払義務があるものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決一四枚目裏九行目冒頭から同一六枚目裏三行目末尾までを引用する。

原判決一五枚目表五行目の「右二」を「前記一」に改め、同裏一〇行目の「生活振りは」の次に「ある面では」を加え、同一六枚目表五行目の「被告が」から同一六枚目裏三行目末尾までを次のとおり改める。

「控訴人が婚姻前に形成した固有財産であると婚姻後の収入であるとを問わず、被控訴人に対し、これら一切の金員の管理を委託し、これらの金員を控訴人と被控訴人の婚姻生活の維持継続に必要な一切の費用等に充てることを容認する内容のものであったというべきである。また、被控訴人のこれらの財産からの支出については、夫婦の生活とは別の被控訴人個人の固有財産の取得費用に充てた場合等、控訴人と被控訴人との婚姻生活維持に必要とは認められない特別な支出は格別、被控訴人が控訴人との婚姻生活中に支出した金員は、原則として右委託の趣旨に沿って支出された費用であると推認すべきである。したがって、前示のとおり右委託契約を解除した控訴人は、被控訴人に対し、婚姻前からの控訴人の固有財産についてはその残額部分についてのみその返還を求めることができるというべきであり、他方、婚姻後の収入については残存する金員のうち財産分与を原因としてその一定割合の金員を請求することができるものというべきである(なお、被控訴人は、控訴人は控訴人の固有財産を含め、一切の収入の半分を被控訴人のものとする旨の合意が成立した旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。)。

そして、《証拠略》によれば、控訴人の固有財産のうち、仙台市の自宅の売却代金については一三一一万円の限度で控訴人名義の預金、生命保険等の形態をとってはいるが、事実上被控訴人が預り保管中であると認められ、その余については、控訴人主張の特定の固有財産が残存していることを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって、控訴人は、前示の委託契約解除に基づき、被控訴人に対し、固有財産の残存額であると認められる一三一一万円に限って、管理を委託していた婚姻前からの固有財産の返還を求めることができるものと認められ、その余の財産については、これを婚姻後に取得した共有財産としてその分与を求めることができるにすぎないというべきである。」

三  控訴人、被控訴人の財産分与請求について

1 控訴人は、被控訴人に対し、財産分与として乙山学園からの給与(昭和五八年一〇月から平成五年三月までの分)八九〇一万七八七八円のうち、右一一四か月間の一か月二〇万円の割合による生活費用二二八万円を控除した残額の半額である三三一〇万八九三九円の支払を求め、他方、被控訴人は、控訴人に対し、同居するにあたって婚姻前に取得した収入であるとその後に取得した収入であるとを問わず、控訴人の一切の財産は夫婦共有にする旨約していたのであり、また、控訴人が今後取得する乙山学園の理事を退職する際に支給される退職金は一億円を下らず、また、控訴人は、右退職後も月額五〇万円以上の恩給や年金を受領するから、財産分与として退職金の半額に当たる五〇〇〇万円の支払を求めるとともに、扶養的財産分与として被控訴人が死亡するまで月額二〇万円の支払を求めている。

2 そこで、検討するに、被控訴人と控訴人とは、今後支給される退職金を含め婚姻後に取得した財産を清算すべきところ、婚姻後の収入である乙山学園からの給与のうち被控訴人が管理する残存額は本件全証拠によっても明確ではないが、前示のとおりの控訴人の収入や被控訴人の財産管理状況、また、前掲各証拠によって明らかな、多額の支出状況、さらに被控訴人は平成二年から平成四年の間に控訴人名義の口座引落としで総額一五〇〇万円もの貴金属、宝石を購入して自己のものとしていること、被控訴人は控訴人との婚姻生活のために高収入であった仕事を辞めたものではあるが、主として控訴人の婚姻前からの固有財産やその後の収入等を生活費等の支出に充てていたものであり、婚姻時に婚姻前からの預金や国債、株式等を約二〇〇〇万円保有していたほか自宅買換えによる差益約三〇〇〇万円を有し、これらを夫婦の共同生活に必要な支出に一部に充てたことはあるものの基本的には控訴人の財産と別に管理運用し、現在も相当程度残存していると認められること、さらに、被控訴人名義の預貯金の中には控訴人の収入も含まれていると推認されること、控訴人は引き続き仙台市からの恩給、公立学校共済組合からの年金、私立学校教職員共済組合からの年金の受給を受けられるが、前記のとおり購入した自宅の代金は平成一五年六月まで毎月二〇万円の割賦支払の必要があること、他方、被控訴人の所有する自宅は現在もなお相当の価値を有すると認められること等一切の事情を勘案すれば、後記退職金の受給を考慮しない場合、被控訴人は、控訴人に対し、財産分与として金五〇〇万円程度を支払うのが相当である。

また、右諸事実を勘案すれば、被控訴人が控訴人に対して支払を求める、本離婚判決が確定した月から被控訴人が死亡するまでの間の月額二〇万円の扶養的財産分与請求は、理由がないものというべきである。

3 他方、《証拠略》によれば、将来、控訴人が乙山学園の理事を退任した場合には、退職金としておよそ金二一九一万七五〇〇円を支給されると認められるから、控訴人は、被控訴人に対し、右学園から退職金を受領したときはその約二分の一に相当する額を支払うべきであると認められる。なお、被控訴人は、控訴人の右学園から支給される退職金は一億円を下らないものであり、前掲各証拠は控訴人と乙山学園の理事長や代理人弁議士は親密な関係にあることからその内容において信用性が乏しい旨主張し、右主張に沿う供述をするが、右供述は前掲各証拠等に照らし容易に採用し難く、退職金が前記認定額を上回ることを証する的確な証拠はないといわざるを得ない。

4 本件における当事者双方の財産分与請求は、慰謝料の要素を含むものではなく、また、被控訴人の扶養的財産分与請求は前記のとおり理由がないから、結局清算的な財産分与のみが残ることになる。そして、前記退職金について被控訴人が求めることのできる分与額と、現在控訴人が請求することのできる分与額とを差引計算すると、結局、被控訴人は控訴人が乙山学園を退職した時に財産分与として五〇〇万円の支払を求める権利を有するものとするのが相当である。

四  被控訴人の慰謝料請求について

当裁判所は、控訴人は被控訴人に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金三〇〇万円及びこれに対する平成六年六月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものと認める。その理由は、原判決の理由説示(原判決一八枚目表七行目冒頭から同裏一〇行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。ただし、同一八枚目裏一〇行目末尾の次に、「したがって、被控訴人の控訴人に対する慰謝料請求は、金三〇〇万円及び反訴状送達の翌日である平成六年六月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。」を加える。

第四  結論

以上によれば、控訴人の本訴請求は離婚及び被控訴人に対し、一三一一万円(財産委託契約解除による返戻金)の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、被控訴人の反訴請求は離婚並びに慰謝料金三〇〇万円及び財産分与として控訴人が乙山学園から退職金の支払を受けたときに金五〇〇万円の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

よって、右と結論を異にする原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 廣田民生 裁判官 三村晶子)

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